一人っ子の私は、何かと周りに甘えて生きてきた。困ったら誰かが助けてくれる、きっとなんとかしてくれるだろうと、いつも他力本願。

そんな私が初めて海外を旅したのは、アメリカの南部。音楽が好きだったことから、ブルースの発祥の地であるメンフィスと、ジャズ発祥地のニューオリンズを訪れた。

当時20歳で語学留学中だった私は、小さな飛行機に乗ってメンフィスへ。そして、忘れられない旅を経験する。

音楽あふれる街を、すぐに好きになった

メンフィスとニューオリンズ、どちらも音楽にゆかりのある土地だが、雰囲気はまるで違った。メンフィスの方が素朴らしさが残り、街中のバーで演奏される音楽も、ブルースやジャズが多め。

一方でニューオリンズは都会的な雰囲気で、ジャズのみでなくロックやポップスの音楽もあちこちから聞こえてきた。

留学中に暮らしていた地域よりも、黒人の割合は高め。怖そうな顔つきをしたガタイが大きい人も多く、それに比べてると20歳の私はまだまだ子ども。おそらく彼らには、16歳くらいにしか見えていないだろう。

周りを見渡しても、アジア人はほとんど見かけないし、ましてや女一人で歩いている人の姿はなかった。

でも不思議と一人でこの街を歩くことは、全く怖くなかった。エルヴィス・プレスリーがかつてレコーディングをしたスタジオを訪ねてみたり、ギブソンのギター工場を見学してみたり、気になったお店にふらっと入って生演奏を聞いてみたり。

新しい景色、知らない音楽を教えてくれるこの街の全てが新鮮で、私はすぐに好きになった。

忘れられない出会い

メンフィスの思い出のひとつに、今でも忘れられない出会いがある。ダウンタウンから離れたところに宿泊していた私を、見ず知らずの男性がホテルから街まで何日も送り届けてくれたことだ。

しつこく詮索してくるでもなく、「どこから来たの?」「なんで一人なの?」とありきたりな質問をしたあとは、ずっと黙っていた。到着してお礼を言うと、一人で帰るのは危ないから「帰りも連絡しなさい」と言う。

不器用ながらも気にかけてくれる彼の優しさに、南部の人々のホスピタリティを感じた。アジア人の女の子が一人で歩いていても、誰一人として変な目で見てこない。お店で演奏を聞いていると、気さくに話しかけてくれる。

この旅の数年後にアメリカを車で横断し、さまざまな街を見てきたけれど、私はこの南部の雰囲気が自分には合っているかもしれないと感じた。

人の活気に圧倒されたニューオリンズ

メンフィスからニューオリンズまでは、鉄道で移動。朝早い便だったため、タクシーに電話をしてホテルに来てくれるよう手配。アメリカで長距離電車に乗るのは初めてだったが、なんとかチケットも購入できて車両に乗り込んだ。

当時は通話とSMSのみ利用できる携帯を持ち歩いており、日本から持ってきたスマホはWi-Fiがあるところのみで使用していた。今では海外用のWi-FiルーターをレンタルしたりSIMを使っているが、当時は外に出ているあいだはネットなしで過ごしていた。

あれ、私意外と一人でもできるじゃん。旅の途中で、少しずつ自信が付き始めていた。

ニューオリンズはイメージしていた通り、街に音楽が溢れていた。ストリートでバンド演奏する人がいたり、いきなりダンスパフォーマンスが始まったり……街を歩いているだけで音楽が聞こえてきて、そのハッピーなムードに自分も染まっていく。

楽しそうに演奏するメンバーと、その音楽に身を任せて踊る観客。普段ならじっと音楽を聞いているのに、自然と私の身体も動き出していた。

一人でお店に入り、ドリンク片手に生演奏を聞いているなんて。数年前、いや数ヶ月前まで考えられないことだった。

もうこのときすでに、旅の魅力にハマっていた。

世界の歴史を外国から見る

そしてニューオリンズでは「第二次世界大戦ミュージアム」を訪問した。世界的にも珍しい博物館で、アメリカから見た大戦の歴史が語られている。そこを訪れたときに、私は「日本人」であることを強く感じた。

今までは当たり前のように日本の教科書で、日本から見た戦争を学んでいたが、英語で語られる日本の歴史を目の当たりにしたときに、衝撃を受けたのを覚えている。日本に攻撃を仕掛けた日、日本に攻撃された日。原爆については、簡単な説明があるだけだった。

そのときに、今までの自分の常識が、海外から見ると全く違うものになることを理解した。ほんの些細なことかもしれないが、このときから歴史の見方や海外の友達への接し方に変化が表れたように思う。

旅を通して、少し変わった自分

ろくに下調べもせず、勢いだけで行ったメンフィスとニューオリンズ。周りの友達はシカゴやニューヨークといった大都会を旅していたけれど、きっと私にはこの街が合っている。

そして現地の人との交流や街の雰囲気、歴史を学ぶことが、当時の私には必要なことだったのだと思う。26歳になった今、今度は堂々とお酒を飲んでこの街を堪能したい。

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